はじめに
標準距離トライアスロンの強度特性は「閾値付近を2〜3時間持続する」ことにあります。そのため心拍トレーニングは、マラソンで重視されるZ2やスプリントで重視されるZ5ではなく、Z3(テンポ)とZ4(閾値)を中心に据えるべきです。本記事では心拍ゾーンの設定方法とトレーニングメニューへの応用を解説します。
一、心拍ゾーンの設定方法
標準距離トライアスロンでは、最大心拍数ではなく「乳酸閾値心拍数(LTHR)」を基準にすることが推奨されます。
- 測定方法:30分間の全力タイムトライアルを行い、後半20分間の平均心拍数をLTHRとする
- ランニングのLTHRは、自転車のLTHRより通常5〜10bpm高い
- スイムは呼吸制限の影響で心拍数が低くなりやすいため、RPE(自覚的運動強度)やペースで管理することを推奨
| ゾーン | ランニング %LTHR | 自転車 %LTHR | 説明 |
|---|---|---|---|
| Z1 | <85% | <81% | 回復 |
| Z2 | 85-89% | 81-89% | 有酸素ベース |
| Z3 | 90-94% | 90-93% | テンポ |
| Z4 | 95-99% | 94-99% | 閾値 |
| Z5 | 100-102% | 100-102% | VO2max |
二、Z3-Z4トレーニングメニュー例
強化期には週3回のZ3-Z4メニューを推奨します。
- ランニングテンポ走:6km連続 @Z3
- ランニング閾値走:4本×1.5km @Z4、休息90秒
- 自転車スイートスポット:3本×15分 @Z3-Z4の境界
- 自転車閾値走:4本×8分 @Z4
三、レース当日の心拍コントロール
標準距離トライアスロンにおける心拍配分(LTHRを基準):
- スイム:呼吸制限により心拍数は自然と低めになるが、体感強度は高い。RPEでコントロールする
- バイク前半10km:Z3の中盤(90-92%)
- バイク中盤以降:Z3の上限からZ4の下限(93-95%)
- ラン前半2km:Z3の上限(93%)
- ラン3〜8km:Z4(95-98%)
- ラン最後の2km:Z4-Z5(上限なし)
四、心拍ドリフト現象
標準距離トライアスロンのような長時間運動では、心拍数が徐々にドリフト(同じペースでも心拍が上昇)します。
- 自転車パートでは約5〜8bpmドリフト
- ランニングパートでは約8〜12bpmドリフト
- 対策:水分補給、ペースをわずかに落とす、心拍とRPEを併用する
実践的アドバイス
- 胸ベルト式心拍計は、手首式光学センサーより約20%精度が高い
- 6〜8週間ごとにLTHRを再測定する
- 高温の日(墾丁や福隆の夏場など)は心拍が自然に5〜8bpm上昇するため、ペースを落とす必要がある
- トレーニング日の「心拍/ペース比」を記録し、体力の向上を追跡する
まとめ
心拍数は万能ではありませんが、非常に実用的なツールです。標準距離トライアスロンではZ3-Z4を軸に据え、RPEやパワー/ペースを組み合わせることで、精密な強度コントロール能力を養うことができます。「いつもZ2で強度が足りない」「いつもZ5で疲れすぎる」といった罠を避けられます。